現地で気づいた愛媛県加茂川視察

2025.09.17

コラム

今回は、愛媛県西条市を流れる加茂川の危険箇所視察の様子をお伝えします。

この視察で、「見た目の穏やかさ」に惑わされず「見えない危険」を意識して一人ひとりが行動することの大切さを強く認識させられました。

01. 視察の背景と目的

愛媛県西条市を流れる加茂川は、夏になると家族連れから大人まで多くの人々で賑わう、川遊びのスポットです。一方で、加茂川は、複数回水難事故が発生しており、地元では水難事故をなくすための取り組みが続けられています。「Love&safetyさいじょう」の久保さんが作成した「加茂川MAP」には、川で遊ぶためのポイントに加え、加茂川の危険箇所や注意点がイラストを交えて詳細に示されています。

出典:一般社団法人Love&Safetyさいじょう「加茂川MAP」

今回の視察の目的は、加茂川において「加茂川MAP」に示された危険箇所・注意箇所を対象に、地図情報だけでは把握しきれない現地の物理的・環境的要因(地形、水流、周辺環境など)を直接確認することです。

02. 「危険」を知らせる看板

これまでに水難事故が発生しており、「加茂川MAP」でも強く危険を伝えていた場所を最初の視察場所に選びました。

まず目に飛び込んできたのは、赤地に黄色の文字で書かれた、あまりにも目立つ遊泳注意の看板でした。

遊泳注意!

▶︎死亡事故多発!

▶︎ライフジャケット着用!

と危険を知らせる看板が河川敷の入り口と駐車場に設置されていました。利用者だけでなく、通行するドライバーの目にも留まるインパクトの強い看板です。

ここでの泳ぎきけん

と大きな横断幕が張られていました。

これほどの注意喚起を目にすると、行政および地域の危険周知の努力が強く伝わってきたと同時に、「ここは遊んでいい場所なのだろうか」という率直な不安さえ感じました。

駐車場に着くと「遊泳注意!」の看板を撮影するテレビ局の姿がありました。撮影理由を伺ったところ、この場所で成人男性が溺れて亡くなったというのです。加茂川MAPで危険箇所としてマークされていた場所での悲劇でした。

03. 「見えない危険」という罠

危険を知らせる看板と横断幕が利用者の目につく場所にあるにも関わらず、なぜ水難事故が起きてしまうのか。現場で「加茂川MAP」作成者の久保さんとテレビ局の方にお話を伺い、自らの目で見た現地の状況から見えてきた水難事故が繰り返される要因をお伝えします。

① 見た目に惑わされる「いつもの川」との違い

久保さんによると事故当日は数日前の雨の影響で、川は普段より水量が多く、流れも速い状態だといいます。しかし、その変化は、日常的に川に親しんでいる地元住民でなければ気づくのが難しいと感じました。

実際、河川敷には足首ほどの水位で流れも緩やかな小川がありました。小さな子どもが安全に遊ぶことができそうな場所という印象です。しかし、この小川も数日前の雨でできたもので、普段はほとんど水がない場所なのです。

普段に比べ水位が増し、流れが速いという「ここでの泳ぎきけん」と警告されている危険箇所でさえ、一見すると流れは穏やかで、対岸まで泳いで渡れそうに思えてしまいます。普段の川の様子を知らない人からすると、この川の見た目から「大丈夫だ」と判断し、警戒心なく水に入ってしまう危険性を強く感じました。

② 岸からは見えない複雑な流れ

対岸まで泳いで渡れそうな川幅と穏やかな流れに見えるこの場所には、見た目に反した複雑な流れが潜んでいます。久保さんによれば、ここは2本の流れがぶつかり合うことで、部分的に数mほど沈み込む強い流れが発生しています。水深も深いところでは5〜6mに達するといいます。この複雑で危険な流れは、岸から見ただけでは判断することはできませんでした。

警戒心を持たずにプールの感覚で泳いで対岸まで目指し、この複雑な流れに巻き込まれてしまうことは十分に考えられます。

この地域では、昔から「あそこは危ない」と語り継がれてきたそうです。久保さん自身も祖父から「あそこでだけは泳ぐな」と、よく言われたと教えてくれました。見た目では判断できない危険から命を守るために地域に伝わる大切な知恵(災害伝承)です。しかし、その教えを知らない人にとっては、この場所が「危険だとは到底思えない、穏やかな川辺」に映ってしまうのではないでしょうか。

04. 注意喚起だけでは命は守れないのか

なぜこれだけ目立つ看板があっても、人は危険な行動をとってしまうのでしょうか。現地に立って強く感じたのは、見た目から危険を判断しにくいからこそ、この場所が「自分(だけ)は溺れないだろう」という危険な思い込み(正常性バイアス)を誘発しやすい環境だということです。

「足がつくところで遊んでいるだけなら大丈夫」

「流れも速くなさそうだし、対岸まで泳ぐくらいなら大丈夫」

「周りにも同じように泳いでいる人がいるから大丈夫」

看板を見て危険な場所だと分かっていても、「自分が思うような“危ないこと”さえしなければ大丈夫」「自分は危ないことなどしない」という根拠のない自信が生まれ、警告の本当の意味を薄めてしまうように思えます。

また、久保さんは、

「この場所で遊ぶのは危険だが、川遊びを禁止することはできない。大人も子どももライフジャケットを着用して遊んで欲しいが、ライフジャケット着用を義務化はできない。ここで遊ぶ人たちに向けては注意を促すことしかできない。」

と水難事故防止の難しさを教えてくれました。
そして、過去の教訓から、大人も含めて川で泳ぐために必要な知識やスキルを学び直す機会と、水辺に対する安全意識の向上が不可欠だと訴えていました。

05. 今日からできること

今回の視察で痛感したのは、水難事故防止の難しさが、その「危険の見えにくさ」にあるということです。穏やかな川の景色の裏側に、死に直結する危険が潜んでいること。そして、その危険は知識や経験がなければ察知しにくいという事実。利用者が自分ごととして捉える情報発信の難しさを、私たちは目の当たりにしました。

水難事故を減らすために、私たちは何をすべきか。それは、海や川でのそなえの教育はもちろんのこと、私たち一人ひとりが「水辺には見えない危険が潜んでいる」という意識を持つことが大切だと痛感します。

特に注意喚起をする看板がある場所では、「目で見て安全」と判断するのではなく、「目には見えない致命的な危険が必ず潜んでいる」と認識し、最大限の注意を払って行動することが求められます。

この記事を読んでいる皆さんには、注意喚起の意味を理解し「自分は溺れないだろう」という思い込みを乗り越え、慎重に行動するきっかけとなることを心から願っています。

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